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釧路地方裁判所 昭和34年(行)2号 判決

原告 太田兼蔵

被告 釧路市農業委員会・国 外五名

訴訟代理人 宇佐美初男 外四名

主文

被告釧路市農業委員会の前主鳥取町農地委員会が別紙第一目録記載の各土地について昭和二二年八月二五日樹立した自作農創設特別措置法第三条の規定に基く買収計画は右各土地の各二分の一の原告の共有持分に限り原告と被告釧路市農業委員会との間において無効であることを確認する。被告国は原告に対し別紙第一目録記載の各土地に対する昭和二二年一〇月二日付自作農創設特別措置法第三条による買収を原因とする釧路地方法務局昭和二五年三月二〇日受付第八五三号所有権移転登記を岩瀬利英の二分の一の共有持分の所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

原告に対し、被告布川鶴吉は別紙第二目録記載の各土地、被告新正人は別紙第三目録記載の各土地、被告岩瀬清吉は別紙第四目録記載の土地に対する各昭和二六年三月二日付自作農創設特別措置法第一六条による売渡を原因とする釧路地方法務局同年五月四日受付第一、六八四号所有権移転登記を、被告古井いちは別紙第五目録記載の土地に対する昭和二六年三月二日付右同法条による売渡を原因とする同地方法務局同年五月七日受付第一、七〇二号所有権移転登記を、各々被告国の二分の一の共有持分の所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

被告釧路市農業協同組合は原告に対し別紙第三目録記載の各土地に対する昭和三三年一〇月八日付債権極度額九〇万円の根抵当権設定契約による釧路地方法務局同年同月一四日受付第七、二六〇号根抵当権設定登記を被告新正人の二分の一の共有持分に対する根抵当権設定登記に更正登記手続をせよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告釧路市農業委員会の前主鳥取町農地委員会が別紙第一目録の土地につき昭和二二年八月二五日定めた自作農創設特別措置法第三条の規定に基く農地買収計画は原告の持分二分の一につき無効であることを確認する、被告国は原告に対し別紙第一目録の土地に対する昭和二二年一〇月二日付自作農創設特別措置法第三条の規定による買収を原因とする釧路地方法務局昭和二五年三月二〇日受付第八五三号所有権移転登記を原告の持分二分の一につき抹消登記手続せよ、原告に対し被告布川鶴吉は別紙第二目録、被告新正人は別紙第三目録、被告岩瀬清吉は別紙第四目録の各土地に対する昭和二六年三月二日自作農創設特別措置法第一六条の規定による売渡を原因とする釧路地方法務局同年五月四日受付第一、六八四号所有権移転登記を原告の持分二分の一につき抹消登記手続せよ、原告に対し被告古井いちは別紙第五目録の土地に対する昭和二六年三月二日自作農創設特別措置法第一六条の規定による売渡を原因とする釧路地方法務局同年五月七日受付第一、七〇二号所有権移転登記を原告の持分二分の一につき抹消登記手続せよ、原告に対し被告釧路市農業協同組合は別紙第三目録の土地に対する昭和三三年一〇月八日証書貸付契約に基く同日債権極度額九〇万円の根抵当権設定契約による釧路地方法務局同年同月一四日受付第七、二六〇号根抵当権設定登記を原告の持分二分の一につき抹消登記手続せよ、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、請求の原因として「釧路郡鳥取村字鳥取七九番地の一原野一九町九畝二八歩、同上同番地の二原野三町九反二畝二七歩、同上同番地の二原野二畝二四歩(地名変更分筆により現在は別紙第一目録記載のとおり)は原告と訴外岩瀬利英との各持分二分の一の共有であつたところ、被告釧路市農業委員会の前主鳥取町農地委員会は昭和二二年八月二五日右三筆の土地についてこれが訴外岩瀬利英の単独所有の農地であるとして自作農創設特別措置法第三条による買収のための買収計画を樹立し、右計画に基き右三筆の土地について北海道知事は昭和二三年九月一五日頃右岩瀬に対する北海道は第二、〇八一号買収令書を同人に交付して昭和二二年一〇月二日を買収の時期とする買収処分を行つた上、右三筆の土地につき昭和二五年三月二〇日釧路地方法務局受付第八五三号で右買収による所有権移転登記を了した。而して被告国は昭和二六年四月二四日右釧路郡鳥取村字鳥取七九番地の一の土地を分筆して同番地の一原野一四町四反二畝一七歩(別紙第二目録(一)の土地)と同番地の七原野四町六反七畝一一歩(別紙第三目録(一)の土地)とし、右七九番地の二の土地を分筆して同番地の二原野二町七反一六歩(別紙第二目録(二)の土地)同番地の八原野一町歩(別紙第四目録の土地)および同番地の九原野二反二畝一一歩(別紙第三目録(二)の土地)とした上、昭和二六年三月二日を売渡の時期として、別紙第二目録の各土地を被告布川鶴吉に、別紙第三目録の各土地を被告新正人に、別紙第四目録の土地を被告岩瀬清吉に、右七九番地の三原野二畝二四歩(別紙目録第五の土地)を被告古井いちに、いずれも自作農創設特別措置法第一六条により売渡し、別紙第二ないし第四目録の各土地については昭和二六年五月四日釧路地方法務局受付第一、六八四号で、別紙第五目録の土地については同年同月七日同法務局受付第一、七〇二号でいずれも右売渡による所有権移転登記を了した。被告釧路市農業協同組合の前身鳥取町主畜農業協同組合は被告新正人との間の昭和三三年一〇月八日付証書貸付契約に基く同日付根抵当権設定契約により別紙第三目録の各土地を共同担保としてこれらの上に債権極度額九〇万円の根抵当権の設定を受け、右抵当権については同年同月一四日釧路地方法務局受付第七、二六〇号で各登記手続がなされた。しかし乍ら右買収計画の対象となつた三筆の土地はいずれも大正一一年六月一三日訴外岩瀬大助および太田松太郎が共同して競落し、その後昭和四年三月二九日右太田松太郎の持分を原告が家督相続により、昭和二一年八月一四日右岩瀬大助の持分を訴外岩瀬利英が贈与により各取得し、原告と岩瀬利英の平等の持分による共有物であつたのに拘らず、鳥取町農地委員会は前記三筆の土地の買収計画樹立に当りその所有者調査の方法として土地台帳のみにより、しかもその末尾欄のみによつたため、もし登記簿を調査し或は土地台帳についても遡つて記載を調べれば発見出来た筈の右土地が原告と岩瀬利英との各持分二分の一の共有に属することを看過し、右岩瀬の単独所有と誤認して同人のみを被買収者とする買収計画を樹立したもので、右買収計画は重大且明白な瑕疵を帯び原告の二分の一の持分権の限度で無効であるから被告釧路市農業委員会との間においてその確認を求める。右の結果右買収計画に基く右三筆の土地に対する国の買収処分も又原告の共有持分二分の一の限度において無効であり、これによつては原告の持分権は国に移転しないし、従つて上記国の売渡処分もまた右限度において無効であつてこれにより被告布川鶴吉、同新正人、同岩瀬清吉、同古井いちはいずれも前記各々売渡を受けた土地について原告の各持分権を取得するいわれがなく、更に被告釧路市農業協同組合の前身鳥取町主畜農業協同組合が別紙第三目録の各土地についてなした上記根抵当権設定契約も右の限度において無効であり右根抵当権は原告の二分の一の持分権には効力を及さない。よつて原告は右各土地の共有権に基き右各被告に対しこれ等真実の権利関係に反する各登記を原告の持分権の限度で抹消することを求める。」

とのべ立証として甲第一、第二号証、第四乃至第七号証を提出し乙号各証の成立はすべて認めるとのべた。

被告等はいずれも「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

「原告主張事実中釧路郡鳥取村字鳥取七九番地の一原野一九町九畝二八歩、同上同番地の二原野三町九反二畝二七歩、同上同番地の三原野二畝二四歩について原告主張のとおり被告釧路市農業委員会の前主鳥取町農地委員会が買収計画を樹立したこと、右買収計画樹立に当つて所有者調査の方法として土地台帳のみによつたこと、右買収計画に基き原告主張のとおり国による買収処分がなされその登記のあること、右各土地が原告主張のとおり分筆された上被告布川鶴吉、同新正人、同岩瀬清吉、同古井いちに各売渡処分がなされその所有権移転登記のあること、並びに別紙第三目録の各土地に原告主張のとおり被告釧路市農業協同組合の前身鳥取町主畜農業協同組合のため根抵当権が設定されその登記のあることはいずれも認めるが、右買収計画は自作農創設特別措置法第三条による買収のためになされたものでなく被告布川鶴吉および同新正人の申請に基き同法第一五条による買収のために樹立された。右買収計画が重大且明白な瑕疵を有し原告の二分の一の持分権の限度で無効であるとの点は争う。前記三筆の土地が原告と訴外岩瀬利英との各持分二分の一の共有であつたとの事実は知らない。仮に原告が右三筆の土地につき二分の一の共有持分権を有するとしても右買収計画が原告の持分権の限度で無効とはいえない。即ち鳥取町農地委員会は右三筆の買収計画樹立の際右各土地の土地台帳によつてその所有者を調査し訴外岩瀬利英の単独所有との土地台帳の記載に従つて買収計画を樹立したものであるが、右買収計画は短期間に大量的に樹立されたものの一部であつたことから所有者確認のため土地台帳に加えて登記簿をも調査することは極めて困難な事情にあつたのでかかる場合土地台帳のみによつて所有者の確認をなすことは行政庁の事務処理上妥当であり、又右土地台帳の記載を末尾欄のみでなく遡つて調査しても原告の持分権の存在は明かとならない。従つてこれに記載されていない権利者を看過する結果となつたため買収計画が瑕疵を帯びるにしても重大且明白な瑕疵とはいえず右買収計画は無効となるものではない。」とのべ、

更に被告国は、「同様にして右買収計画に基く国の買収処分もまた無効ではないので、国は単独で所有権を取得しその旨の上記買収処分による所有権移転登記は真実の権利関係に合致しており従つて原告の請求は失当である。」とのべ、被告布川鶴吉、同新正人、同岩瀬清吉、同古井いちは各々、「右買収計画および買収処分が無効でなく国が単独所有者となつたのである以上国のなした上記各売渡処分ももとより無効ではなく、同被告等はそれぞれ国より自己の売渡を受けた土地につき単独所有権を取得しておりその旨の売渡処分による上記各所有権移転登記は真実の権利関係に合致しており、原告の請求は失当である。」とのべ、被告釧路市農業協同組合は「右買収計画、買収処分、及び被告新正人に対する売渡処分がすべて無効でない以上被告新正人は別紙第三目録の各土地を単独で所有しており、従つて同被告からこれ等土地に設定を受けた根抵当権はもとより有効であつて上記各根抵当権の登記は真実の権利関係に合致しているので、原告の請求は失当である」とのべ、被告釧路市農業委員会は証人原田寿治の尋問を求め乙第一および第二号証の各一乃至三を提出し、被告全員は各々甲号各証の成立はすべて認めるとのべた。

理由

被告釧路市農業委員会の前身鳥取町農地委員会が昭和二二年八月二五日釧路郡鳥取村字鳥取七九番地の一原野一九町九畝二八歩、同上同番地の二原野三町九反二畝二七歩、同上同番地の三原野二畝二四歩の三筆(地名変更分筆により現在は別紙第一目録記載のとおり)についてこれ等が訴外岩瀬利英の単独所有に属する農地であるとして自作農創設特別措置法による買収計画を樹立したこと(同法第三条の買収のためのものか第一五条の買収のためのものかの点を除く)、右買収計画に基き右三筆の土地について北海道知事が右岩瀬利英の単独所有として昭和二三年九月一五日頃同人に対し北海道は第二、〇八一号買収令書を交付して昭和二二年一〇月二日を買収の時期とする買収処分を行い、これ等の土地につき昭和二五年三月二〇日釧路地方法務局受付第八五三号で右買収による所有権移転登記のなされたこと、右三筆の土地のうち七九番地の一及び同番地の二の土地が原告主張の通りに分筆され、昭和二六年三月二日を売渡の時期として別紙第二目録の各土地が被告布川鶴吉に、別紙第三目録の各土地が被告新正人に、別紙第四目録の土地が被告岩瀬清吉に、別紙第五目録の土地が被告古井いちに、いずれも自作農創設特別措置法第一六条により売渡され、別紙第二ないし第四目録の各土地につき昭和二六年五月四日釧路地方法務局受付第一、六八四号で、別紙第五目録の土地につき同年同月七日同地方法務局受付第一、七〇二号でいずれも右売渡による所有権移転登記のなされたこと、並びに被告釧路市農業協同組合の前身鳥取町主畜農業協同組合が被告新正人との間の昭和三三年一〇月八日付証書貸付契約に基く同日付根抵当権設定契約により別紙第三目録の各土地を共同担保としてこの二筆の上に債権極度額九〇万円の根抵当権の設定を受け、同年同月一四日釧路地方法務局受付第七二六〇号でその登記のなされたことはいずれも原告と各被告との間に争いがなく、いずれも成立に争のない甲第一号証並びに乙第一および第二号証の各一ないし三によれば右買収計画は自作農創設特別措置法第三条による買収のためになされたものと認められほかにこの認定を覆す証拠はない。

そこで先ず鳥取町農地委員会が昭和二二年八月二五日上記買収計画を樹立した当時におけるその対象である上記三筆の土地の所有権の帰属について考察するに、いずれも成立に争いのない甲第一、第二および第七号証によればこれ等三筆の土地はいずれも大正一一年六月一三日訴外岩瀬大助および同太田松太郎が共同して競落し、その後昭和四年三月二九日右太田松太郎の持分を原告が家督相続により、昭和二一年八月一四日右岩瀬大助の持分を訴外岩瀬利英が贈与により各取得し右買収計画当時原告と訴外岩瀬利英との平等の持分による共有物であつたことが認められる。乙第一および第二号証の各一乃至三中右認定に反する部分は措信し難くほかに右認定を覆えすに足る証拠はない。

被告等はかりに右三筆の土地が原告と岩瀬利英との共有であつたとしても右各土地の土地台帳には岩瀬利英の単独所有と記載されておるから右記載に基いて鳥取町農地委員会が樹立した上記買収計画は無効でない旨主張するけれども、同委員会が右土地台帳のみの調査によつて右買収計画を樹立したとの当事者間に争のない事実に甲第一、第二及び第七号証並びに乙第一及び第二号証の各一ないし三、証人原田寿治の証言を綜合すれば、本件買収計画は、同委員会がその樹立に当り右各土地の不動産登記簿、所轄登記所備付の土地台帳及び町役場備付の土地台帳副本を調査照合したならば右各土地が原告と岩瀬利英との共有に属することを容易に発見でき得るにもかかわらず、もつぱら町役場備付の土地台帳副本の調査に頼つた結果右各土地が岩瀬利英の単独所有に属するものと誤つて樹立されたものと認むるのほかなく、かような重大且明白な瑕疵のある上記買収計画は、岩瀬利英の二分の一の共有持分権に関する限りではこれを有効と解することができるとしても、原告の二分の一の共有持分権の範囲内においてはこれを無効と認定せざるを得ない。そうだとすれば右三筆の土地につきなされた右買収計画に基く上記買収処分及び分筆後の各売渡処分もまた原告の右共有持分権に関する限り無効であつて原告は右各土地につきなお二分の一の共有持分権を有し、従つて別紙第二ないし第五目録記載の各土地に対する被告釧路市農業委員会を除くその余の各被告名義の各所有権移転登記及び根抵当権設定登記はいずれも原告の右共有持分に関する限り真実の権利関係に符合しない無効のものといわなければならない。

ところで原告は被告釧路市農業委員会以外の各被告に対し各所有権移転登記又は根抵当権設定登記を原告の二分の一の共有持分権の限度で抹消することを請求するけれども、登記手続上この様な一部抹消登記をなすことは不可能と考えられ、右請求の趣旨とするところは、右各登記について、右各被告国に対しては別紙第一目録記載の各土地につき訴外岩瀬利英の、被告布川、岩瀬、及び古井に対しては別紙第二ないし第五目録記載の各当該土地につき国の各二分の一の共有持分権のみの移転登記に更正し、被告釧路市農業協同組合に対しては別紙第三目録記載の各土地につき被告新正人の二分の一の共有持分権に対する根抵当権設定登記に更正登記手続をなすことを求めるものと解すことが相当であるので、原告の本訴請求はすべて理由あるものとしてこれを認容すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石松竹雄 鈴木弘 横畠典夫)

(別紙目録省略)

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